1−2−1 企業内容開示制度(ディスクロージャー制度)の概要
- 発行市場と流通市場
- 開示(ディスクロージャー)とは
- 開示適用除外有価証券、第一項有価証券と第二項有価証券
- 取得勧誘、売出し、募集、私募
- 電子記録移転権利(追記予定)
1.発行市場と流通市場
資本市場は、直接金融が行われる場です。これは、2つの役割に分けて考えることができます。
貸手(投資家)は、借手(企業)に対して直接資金を融通し、有価証券を受け取ります。このように、有価証券を発行して資金調達を行う場のことを、発行市場と呼びます。
投資家にとっては、その有価証券を保持し続けるほか、売却して投資を回収する仕組みが必要です。そのような場を、流通市場と呼びます。
市場 | 具体的な場所 | 企業行動 | 投資家行動 |
---|---|---|---|
発行市場 | 証券会社等を通じて取引 | 有価証券の新規発行による資金調達 | 発行者からの有価証券の購入 |
流通市場 | 証券取引所など | ー | 市場での有価証券の売買 |
このようにまとめてみると、流通市場は投資家同士が売買を行う場所であって、いったん資金調達を行ってしまった企業にとっては無関係な場所となってしまうように見えますが、流通市場では有価証券の価格が決定されており、企業のその後の資金調達の行動に大きく影響することになります。その意味で、発行市場と流通市場は相互に関係していると言えます。
2.開示(ディスクロージャー)とは
有価証券の発行者と投資家との間には、通常、投資対象の収益性やリスクなどの情報量に大きなギャップがあると考えられます。このギャップを埋めるため、金融商品取引法は、投資家の判断に役立つ情報を有価証券の発行者が開示することを義務付けています。これを、企業内容開示制度(ディスクロージャー制度)といいます。
具体的には、発行市場においては有価証券届出書を、流通市場においては有価証券報告書を、発行者が内閣総理大臣に提出します(書類はこれら以外にもあります)。これらの書類は、EDINET(Electronic Disclosure for Investors’ NETwork)を通じて提出することになっています。提出後5年間、財務局や証券取引所、発行者の本店などで公衆の縦覧に供されます。また、EDINETを通じて閲覧することも可能になっています。
3.開示適用除外有価証券、第一項有価証券と第二項有価証券
第2条で定義された有価証券のうち、開示制度が適用されない有価証券が第3条によって指定されています。
- 2条1項関係では、国債証券(1号)、地方債証券(2号)、特殊債(3号)、特殊法人の発行する出資証券(6号)、貸付信託の受益証券(12号)が、
- 2条2項関係では、主として有価証券に対する投資を行う事業に関する権利(「有価証券投資事業権利」)以外の権利(2条2項各号)が、それぞれ除外されています。
また、開示を必要とするかどうかを判定する際の概念として「第一項有価証券」と「第二項有価証券」という特殊な用語が第2条3項で定義されています。ここで、「2条1項の有価証券」と「第一項有価証券」は範囲が異なり、同様に「2条2項の有価証券」と「第二項有価証券」も異なりますので、注意が必要です。あとで見る通り、「第一項有価証券」のほうが開示規制に関して厳しい要件となっています。
これらをまとめると、以下のようになります。
- 「電子記録移転権利」については、後述します。
4.取得勧誘、売出し、募集、私募
金融商品取引法では、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘(「取得勧誘」)のうち一定の条件を満たすものを「募集」、満たさないものを「私募」と呼びます(2条3項)。ここで「一定の条件」は、「第一項有価証券」と「第二項有価証券」で異なっています。「第一項有価証券」のほうが「第二項有価証券」よりも流動性が高いことから、より広く規制対象とするためです。
- 第一項有価証券の取得勧誘の場合、多人数(プロを除いて50人)向けの勧誘(2条3項1号)か、それ以外の場合には適格機関投資家(プロ)私募、特定投資家私募、少人数私募の条件に該当しない場合(2条3項2号)が「募集」となり、開示規制の対象となります。「私募」の場合には開示規制の対象となりません。
- 第二項有価証券の取得勧誘の場合は、相当程度多数の者(500人)が有価証券を保有することになる場合(2条3項3号)が「募集」となり、開示規制の対象となります。
また、すでに発行された有価証券の売付けの申込みまたはその買付けの申込みの勧誘(「売付け勧誘」)のうち一定の条件を満たすものを「売出し」(2条4項)、満たさないものを「私売出し」と呼びます(※1)。
(※1)「私売出し」という用語は法律上は定義されていません。
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